神戸地方裁判所 昭和34年(ワ)781号 判決 1963年3月08日
判 決
広島県福山市箕島町四六三番地の一
原告
楢崎一二
同市松浜町二三六番地末本市子方
原告
楢崎隆之
右両名訴訟代理人弁護士
村井禄楼
被告
国
右代表者法務大臣
中垣国男
右指定代理人検事
杉内信義
同総理府事務官
岩坂哲彦
同法務事務官
吉田周三
同法務事務官
森下康弘
右当事者間の損害賠償請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告は原告楢崎一二に対し金三、〇四二、一八六円及びうち金二、二六八、八九六円に対する昭和三四年九月一二日からうち金一一三、六三〇円に対する同三六年七月一日から、うち金一一、一六〇円に対する同三七年四月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
被告は原告楢崎隆之に対し、金一三、九〇〇円及びこれに対する昭和三四年九月一二日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
原告楢崎一二のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五〇分し、その一を原告楢崎一二の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
原告両名訴訟代理人は、「被告は原告楢崎一二に対し金三、一〇八、一八六円及びうち金二、九九四、五五六円については昭和三四年九月一二日から、うち金一一三、六三〇円については同三六年七月一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。被告は楢崎隆之に対し金一三、九〇〇円及びこれに対する昭和三四年九月一二日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人等は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求めた。
第二、請求の原因
一、原告楢崎一二所有の機附帆船新栄丸(総トン数六六トン九四船籍港大阪市、船長原告楢崎一二、機関長原告楢崎隆之)は、ベルトコンベヤー及び附属品約七〇トンを積載し、船首二・二〇メートル船尾二・六〇メートルの喫水をもつて、昭和三三年八月二八日午後五時山口県宇部港を発し、途中広島県福山港に寄港して食料を補給し、翌々三〇日午後一時同港を出帆し大阪港へ向つた。同船は翌三一日午前一時カンタマ一番浮標の南二分一海里を通過、針路を淡路島北方航空灯台に向け、本船航路(海図上の推せん航路)に達してから江埼灯台に向け、これに近づいた後左転し、午前一時四八分頃同灯台を二分一海里に通過して針路を平磯灯台に向けた。午前一時五一分頃松帆崎を右舷正横二分一海里に並航し針路を一点右転(平磯灯台を約二分一海里に通行する目的にて)し磁針々路東四分三南にしたとき右舷船首四点、距離約三海里にあたり他船の白灯一個及び紅灯一個を発見した。新栄丸は船長である原告楢崎一二が操舵し、甲板員である訴外田原健二が船橋左舷側に見張りに立ち他船の行動を注意し、時速六・五海里の速力で進行したが、他船の航海灯の方位は変移せず、距離約四〇〇メートル(他船の船体は未だ見えなかつた)となつたので、午前一時五八分半頃右舵一杯に取りきり右方に回転し、その船首淡路島鵜崎辺りに向いた折、他船の紅灯隠れ緑灯見え始め(彼我の距離約一〇〇メートル、他船の方位左舷船首約三点、他船の船体初めて見えた)新栄丸の船首はなおも回転を続け、岩屋港防波堤灯台位に向いた頃、同船長は臨機の処置として機関の停止を命じ左舵一杯に取り換えたが、午前二時頃同防波堤より真方位二三度距離二、三〇〇メートルの位置において、船首磁針南二分一西位に向いたとき、その船首は他船の右舷船尾部(船尾より約七メートルの個所)に他船の前方より約七〇度の角度をもつて衝突し、その船首材を破損した。同船は浸水甚だしく沈没の虞れがあつたので、同船長は同船を唐崎鼻附近に坐洲させるべく機関を全速力にかけ進行したが午前二時一五分頃平磯灯台より真方位二四八度距離二、〇〇〇メートルの位置に達したとき、機関が自然に停止して漂流し、午前二時四〇分頃同灯台より真方位一三〇度距離九〇〇メートルの位置において船首を先にして同船は沈没した。
衝突当時の天候は薄雲、北風(階級二)、月明あり、視界良好、潮流は東流盛期に近かつた。
二、右衝突の相手船はアメリカ合衆国海軍掃海艇M・S・C二〇五ビレオ(Vireo)号(排水トン三九〇トン)であり、日本国に駐留して日米安全保障条約の定める任務に従事中、横須賀港を発し、佐世保に向うものであつたが、大阪湾から明石瀬戸を経て播磨灘に出ようとする航行の途次、米国海軍少尉ウイリアム・エス・クラークが当直士官として同掃海艇操縦の任にあたつていた。
前記本件衝突が起つた明石瀬戸は、海上衝突予防法第二五条の「狭い水道」に該当するから、同瀬戸を通過する船は水路の中央より右側に就いて進行しなければならないところ、同士官はその左側に就いて進行中、当時視界良好であつたからその前方に在る他船の航海灯を遠距離より望見しうべき状況にあつたにもかかわらず、同士官は見張りの怠りにより衝突の二分前(午前一時五八分)に左舷船首方に距離約九〇〇メートルに至り初めて新栄丸の緑灯を発見し、時速約一二海里の全速力で、折からの東流に抗して続航していたが、同時五九分頃他船との距離約四〇〇メートルに接近したとき衝突の危険を感じたので二短音を吹鳴して左舵一杯をとつたが午前二時頃前記のとおり新栄丸と衝突したのである。
以上のとおり、本件衝突事故は、ビレオ号の当直士官が、海上衝突予防法第二九条に違反して見張りを怠つたこと、及び狭隘な水道である明石瀬戸を通過するにあたり、同法第二五条に違反して同水道の左側を航行したのみならず、近距離に至つて却つて、船首を左転した職務上の過失に基因するものであるところ、原告等は本件衝突事故により次のとおりの損害をこうむつた。
三、原告楢崎一二のこうむつた損害
(一)、金一二三、五七五円
新栄丸船体浮揚工事費
(二)、金六七、八五六円
右浮揚された新栄丸を本修理のため広島県鞆港本瓦造船所へ回航するに必要な限度の仮修理費(森崎造船所に対する支払分)
(三)、金一、八四八、五〇〇円
船体本修理費(本瓦造船所に対する支払分)
(四)、金三七、〇〇〇円
船内電気配線、配電盤濡損復旧工事費
(五)、金七、一六〇円
機関修理費
(六)、金九九、九九九円
沈没のため流失した船具の損害金
(七)、金二四、九五〇円
身廻品流失損害(内訳)
(1)、金二、〇〇〇円
カツターシヤツ 二枚
(2)、金四、六五〇円
合オーバー 一着
(3)、金一六、〇〇〇円
トランジスターラジオ一台
(4)、金二、三〇〇円
靴 一足
(八)、金九三、五二〇円
船用品流失損害(内訳)
(1)、金八、七二〇円
燃料用重油 四〇缶
(2)、金三、〇〇〇円
マシン油 五缶
(3)、金四〇〇円
灯 油 一缶
(4)、金二、四〇〇円
白 米 二斗
(5)、金一、〇〇〇円
上等干うどん一箱(五貫目入)
(6)、金七八、〇〇〇円
新栄丸進水祝賀のため寄贈を受けた船名旗 六五旒
(九)、金四五、〇〇〇円
本件衝突に基因して支出した交通費
(一〇)、金一三、〇〇〇円
本件衝突に基因して支出した通信費
(一一)、金一六、〇〇〇円
本件衝突に基因して支出した食費
(一二)、金二〇、〇〇〇円
本件衝突に基因して支出した宿泊料
(一三)、金五九七、九九六円
衝突の翌日である昭和三三年九月一日から修理が完了した日である同年一二月二二日まで一一三日間の休航による滞船損害金。
新栄丸の運航による収入はその衝突前において例えば昭和三三年五月八日から同年八月一三日までの九七日間の宇部、阪神間航海による収得運賃は合計金七一一、九四二円であつて、一日当り金七、三三九円であり、またその衝突後における例えば同三四年一月六日から同年六月一日までの一四六日間の和歌山、阪神、宇部間航海による収得運賃は合計金九七四、〇二八円であつて、一日当り金六、六七一円となる。従つて、衝突の前後を通じての収得運賃は平均一日当り金七、〇〇五円となる。
そして、同船は航海するについて、一カ月間に重油三六〇リツトル(金四三、六〇〇円)、マシン油二一六リツトル(金七、二〇〇円)、フカシ用灯油二七リツトル(金六〇〇円)を消費し、この経費一日当り金一、七一三円となる。
よつて、一日当りの運賃収入から右経費を差引いた金五、二九二円が新栄丸の一日当りの休航損害金となり、一一三日間では金五九七、九九六円となる。
(一四)、金一〇〇、〇〇〇円
アメリカ合衆国海軍及び日本国政府は、故意又は過失によつて、本件衝突責任は原告側にありと主張、抗争するので、原告はやむを得ず、海難審判補佐及び訴訟代理を海事専門弁護士村井禄楼に委任し、解決に至るまでの着手金として金一〇万円を支払つた。この報酬金は被告において負担すべきものである。
(一五)、金一三、六三〇円
同弁護士が神戸地方海難審判庁において原告楢崎一二を補佐するに際して、一件記録の謄写及び写真の撮影等に要した費用。
四、原告楢崎隆之のこうむつた損害金一三、九〇〇円
携帯品流失損害(内訳)
(一) 金五、七〇〇円
夏服上下 一着
(二) 金二、七〇〇円
カツターシヤツ 三枚
(三) 金四、〇〇〇円
靴 一足
(四) 金一、五〇〇円
寝具 上下 一組
五、そして、ビレオ号の行動は、日本国に駐留して、日米安全保障条約の定める任務に従事中のものであつて、前記原告等のこうむつた各損害はアメリカ合衆国の軍隊の構成員又は被用者がその職務を行うについて日本国領水内で違法に原告等に加えたものであるから、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法」(昭和二七年法律第一二一号)第一条が適用され、国家賠償法第一条又は民法第七一五条により、被告がその賠償の責に任ずべきものである。
よつて、原告楢崎一二は被告に対し、本件衝突によりこうむつた損害の合計金三、一〇八、一八六円の賠償及びこれに対するうち金二、九九四、五五六円については本訴状送達の日の翌日である昭和三四年九月一二日から、うち金一一三、六三〇円については原告の第一準備書面送達の翌日である同三六年七月一日から、それぞれ支払済みにいたるまで民事法定利率の年五分の割合による金員を遅延損害金として支払うことを求め、また原告楢崎隆之は同じく被告に対し、そのこうむつた損害の合計金一三、九〇〇円の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和三四年九月一二日から右支払済みまで民事法定利率の年五分の割合による金員を遅延損害金として支払うことをそれぞれ求め、民事訴訟法第一五条第二項により、被害船新栄丸が最初に到達した地を管轄する神戸地方裁判所に本訴提起に及んだ。
第三、被告の答弁及び主張
一、請求原因事実に対する被告の認否
原告等主張の本訴請求原因第一項記載の事実中、原告等主張の海上で、新栄丸とアメリカ合衆国海軍掃海艇MSC二〇五ビレオ号(排水トン三九〇トン)が衝突し、新栄丸が原告主張の位置で沈没したことは認めるが、その余の事実は不知であり、同第二項記載の事実中、右ビレオ号が日本国に駐留して日米安全保障条約の定める任務に従事中であつたことは認めるが、その余の事実は争う。同第三項、第四項記載の事実は争う。同第五項記載の事実中、前記認める部分と本訴の管轄が神戸地方裁判所にあることは認めるが、その余の事実は争う。
二、被告の主張
本件衝突の原因は原告等の過失にある。
新栄丸はビレオ号を右舷側に見つつ、ビレオ号の進路を横切るべく運航してきたものであるから、海上衝突予防法第一九条によりビレオ号の進路を避けるべき義務があつたにもかかわらず、距離約三〇〇メートルの近距離になつても、なおビレオ号の進路を避けようとせず、従前の進路及び速力を保つたまま運航を続けたため、ビレオ号操縦者は衝突を避けるため、やむなく同法第二一条但書による臨機の措置として、針路を左転したものであつて、ビレオ号操縦者にはなんらの過失もない。
第四、被告の主張に対する原告等の答弁
本件には海上衝突予防法第一九条の適用はなく、同法第二五条第一項のみが適用されるべきである。
第五、証拠≪省略≫
理由
(証拠―省略) を総合すれば、次の事実が認められる。
原告楢崎一二所有の機附帆船新栄丸(総トン数六六・九四トン、船籍港大阪市、船長原告楢崎一二、機関長原告楢崎隆之)は、鉄骨約七〇トンを積載し、船首二二メートル、船尾二・六メートルの喫水をもつて、昭和三三年八月二八日午後五時山口県宇部港を発し、途中広島県福山港に寄港して食料を補給し、翌々三〇日午後一時同港を出帆し大阪港へ向つた。同船は正規の航海灯を掲置し、翌三一日午前一時四一分頃、江崎灯台から北三七度東(方位は、度のみをもつて示すものは真方位、その他は磁針方位である)一、二〇〇メートルばかりの地点に達し、針路をほぼ東微南に定め、機関を毎時約六海里の全速力にかけて、幅員二海里余の狭い水道である明石瀬戸の進行方向に対する帆路筋の右側を、折からの東流に乗じて進行中、見張を兼ねて操舵に従事していた原告楢崎一二は、間もなく右舷船首一点半四、五〇〇メートルばかりの同瀬戸東口附近に、白、紅二灯を示して西航中のM・S・C二〇五ビレオ号(排水トン三九〇トン)を認めた。その後他船の方位はほとんど変わらないまま互いに接近したが、原告楢崎一二は、そのまま同瀬戸の右側を続航し、同時四九分半頃他船と距離三〇〇メートルばかりに接近したので、右舵一杯をとり左舷側を相対して替わそうしたところ、原針路から約二点右転した同時五〇分少し前頃、他船はほぼ正船首百二、三十メートルのところで突然紅灯をいん滅して、緑灯を示したので、原告一二は、驚いて左舵一杯をとり衝突をさけようとしたが及ばず同時五〇分頃岩屋港東防波堤灯台から二三度距離二、三〇〇メートルの地点において、新栄丸の船首がほぼ南東微南に向いてビレオ号の右舷船尾に前方から約六点の角度で衝突し、新栄丸は船首部を大破して、衝突後約四〇分にして平磯灯台より真方位一三〇度距離九〇〇メートルの海上で沈没するにいたつたこと。
ビレオ号は、大阪湾から明石瀬戸を経て播磨灘に向う航行の途次で、米国海軍少尉ウイリアム・エス・クラークが当直士官として同船操縦の任に当り、正規の航海灯を掲置し、同月三一日午前一時四八分岩屋港防波堤灯台から三五度二、三〇〇メートルの地点に達したとき、船首が明石瀬戸の中央に向く三一〇度の針路に定めて進行中、間もなく二九〇度距離九〇〇メートルばかりのところに新栄丸の緑灯を認め、他船は前路を右方に横切る態勢で、その方位はほとんど変らないまま接近したが、同少射は、同瀬戸の右側に就かず、前示進路のまま機関を一時間約一二海里の全速力にかけ、折からの東流に抗して続航し、同時四九分少し過ぎ、他船と四〇〇メートルばかりに接近したとき衝突の危険を感じたので、二短音の警笛を発して左舵一杯をとつたところ、その後左転しつつある本船に向つて他船は右転し来り、船首が約二五〇度に向いたとき前記のように衝突し、ビレオ号は右舷船尾舷しよう板及び防舷材に小破口を伴う亀裂並びに擦傷を生じたこと。衝突当時の天候は薄曇で弱い北風が吹き、月明があり視界良好で、潮流は東流盛期に近く、一時間約四海里の東流があつたこと。以上の事実が認められる。
以上の事実より、本件衝突事故の原因を考えてみるに、本件衝突は、ビレオ号が海上衝突予防法第二五条の規定に違反して、狭隘な明石瀬戸を、その東口から進入通過するに当り、進行方向に対する航路筋の右側に就かず、且つ他船を左舷側に見て互に進路を横切り衝突のおそれがある場合に、同法第二一条の規定に違反し、左転して他船の前面に進出したビレオ号操縦者の不当運航に起因するものと断ぜざるを得ない。
被告は、原告側の海上衝突予防法第一九条違反の事実を云々するが仮りに同条が本件に適用ありとしても前記認定資料によると、新栄丸は前記の通り右転して進路を避譲しており、ビレオ号操縦者としては、同法第二一条本文により針路を保持すべきで、同条但書の緊急避譲措置としての協力動作を行うとしても、新栄丸が右転しているのであるから、常にその動静を注視し、右転すべきであつたにもかかわらず、左転したもので、ビレオ号が左転さえしなければ本件衝突事故は発生しなかつたことが認められるから、本件衝突事故発生の責は、ビレオ号において負担すべきものである。
よつて、次に右衝突事故によつて、原告等がこうむつた損害について判断する。
原告楢崎一二主張の損害金のち、三の(一)記載の金員は(証拠―省略)により、同(二)記載の金員は(証拠―省略)により、同(三)記載の金員は(証拠―省略)により、同(四)記載の金員は(証拠―省略)により、同(五)記載の金員は(証拠―省略)により、同(九)、(一〇)、(一二)記載の金員は(証拠―省略)により、同(一四)、(一五)記載の金員は(証拠―省略)により、それぞれ、原告楢崎一二がその主張のとおり、本件衝突事故に基因して支出したこと(但し(三)の金員中六四八、五〇〇円は未払だが、原告一二が本瓦造船所に支払わねばならない債務となつている)また右(一五)の金員は昭和三五年九月ないし同年十一月に支出され、之と(四)のうち七千円、(五)のうち四、一六〇円を除きその余はすべて本訴提起前に支出されたものであり、右の二口合計一一、一六〇円の支出日は明らかでないが昭和三七年三月以前であることが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
しかしながら、同(六)記載の船具の流失損害金については、(証拠―省略)によれば、原告楢崎一二が、流失した船具を補充購入するため、合計金九九、九九九円を支出したことが認められるが、これは、いずれも新品の買入価格であるから、右金額をもつて、船具流失による損害額とすることは不当利得分を生じて適当でなく、原告においてこの点につき特段の立証のないかぎり、船具の損害額は右金額の半額である金四九、九九九円(円未満は切捨)となすのが適当であると思われ他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
また、同(二)記載の金員の支出は(証拠―省略)のみをもつてしてはいまだ本件衝突事故と相当因果関係ありとして、本件損害金中に包含されるべきものと認めるに足らず、他にこれを首肯するに足る証拠はない。
次に、(証拠―省略)によれば、原告楢崎一二は本件衝突事故によりその所有にかかる三の(七)の(1)ないし(4)、同(八)の(1)ないし(6)記載の身廻品及び船用品をそれぞれ流失し、その損害額は同(七)、(八)記載の金額が相当と認められ、(中略)他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
次に、同(一三)記載の滞船損害金について判断する。
本件衝突事故が起つたのは、前認定のとおり昭和三三年八月三一日であり、(証拠―省略)によれば、新栄丸の破損箇所の修理が完了したのは、同年一二月二二日と認められ、そうすると、原告楢崎一二は衝突の日の翌日である同年九月一日から、右修理完了の日まで一一三日間、新栄丸を修理のため休航させなければならなかつたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
そして、(証拠―省略)によれば、原告楢崎一二主張のとおり、新栄丸による運賃収入は一日当り、本件衝突前においては金七、三三九円であり、衝突後では金六、六七一円であると認められ、右認定を覆えすに足る証拠はなく、これを平均すれば、一日当り金七、〇〇五円となる。また、(証拠―省略)によれば、新栄丸を運航するにつき、一日当り燃料費等金一、七一三円を必要とすることが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はないから、右一日当りの運賃収入額から右必要経費を差引いた額金五、二九二円に、前記休航した日数を乗じた額金五九七、九六九円が、右新栄丸休航により原告楢崎一二がこうむつた損害額といいうる。
また、(証拠―省略)によれば、原告楢崎隆之は、本件衝突により、その主張のとおりの携帯品を流失し、その損害額はその主張のとおり合計金一三、九〇〇円であることが認められ、(証拠―省略)他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
そうすると、原告楢崎一二、同隆之が、本件衝突事故によりこうむつた損害の額は、それぞれ、合計金三、〇四二、一八六円、金一三、九〇〇円ということができるところ、前記ビレオ号が本件衝突当時、アメリカ合衆国海軍掃海艇であり、日本国に駐留して、日米安全保障条約の定める任務に従事中であつたことは当事者間に争いがなく、本件衝突当時同船操縦の任に当つていたのは同合衆国海軍少尉ウイリアム・エス・クラークであり、本件衝突事故は同人の不当運航に起因するものであることは、前判示のとおりであるから、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基ずく施設及び区域並びに「日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法」(昭和二七年法律第一二一号)第一条が適用され、国家賠償法第一条により、被告がそれぞれその賠償の責に任ずべきものである。
そうすると、被告は原告楢崎一二に対し、右損害金三、〇四二、一八六円及びうち前記の(一四)(一五)合計金一一三、六三〇円については原告が本訴中に之を請求した第一準備書面送達の翌日たる昭和三六年七月一日から年五分の遅延損害金、同金額と前記(三)の未払分六四八、五〇〇円及び(四)(五)の一部一一、一六〇円を除きその余の二、二六八、八九六円については本訴状送達の翌日たること記録上明かな昭和三四年九月一二日から年五分の遅延損害金右一一、一六〇円については昭和三七年四月一日から年五分の遅延損害金を支払う義務があり、また、被告は原告楢崎隆之に対し、前記損害金一三、九〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな同三四年九月一二日から支払済みまで年五分の遅延損害金を支払う義務があるというべきであつて、結局、原告楢崎一二の本訴請求は右認定の限度においては、理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却することとし、原告楢崎隆之の本訴請求は理由があるからこれを認容することとする。
よつて、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第四民事部
裁判長裁判官 森 本 正
裁判官 畑 郁 夫
裁判官 杉 谷 義 文